むすびで遅くまでしゃべっていると
ふらりと見知らぬおじさんが入ってきた。
「なんかいいことないか?」
酔っ払ってはいるものの 目はまだしっかりしている。
聞けば64才 「金の卵」だった男性は 大阪に出てきて50年。
中学卒業と同時に働きはじめた。
「今日も どやされて アゴで使われて
言い返したら 『帰れ』って。帰ったら賃金ももらえんし」
日雇い労働のつらさは 肉体だけではなく
若いやつにエラそうにされても じっと耐えるしかないこともあるんだ。
年齢のわりには身体がカッチリ 頑丈そうな
そのおじさんの残した
「動かなあかん。 人間 動いとかな。」
ということばが 夜の空にぽっかりと浮かんで
しばらく消えなかった。